情合《じょうあい》の深い、旦那、お前様だ。」
「いや、恥かしい、情があるの、何のと言って。墓詣りは、誰でもする。」
「いや、そればかりではねえ。――知っとるだ。お前様は人間扱いに、畜類にものを言わしったろ。」
「畜類に。」
「おお、鷺《さぎ》によ。」
「鷺に。」
「白鷺に。畷《なわて》さ来る途中でよ。」
「ああ、知ってるのかい、それはどうも。」

       四

 ――きみ、きみ――
 白鷺に向って声を掛けた。
「人に聞かれたのでは極《きま》りが悪いね……」
 西明寺を志して来る途中、一処、道端の低い畝《あぜ》に、一叢《ひとむら》の緋牡丹《ひぼたん》が、薄曇る日に燃ゆるがごとく、二輪咲いて、枝の莟《つぼみ》の、撓《たわわ》なのを見た。――奥路に名高い、例の須賀川の牡丹園の花の香が風に伝わるせいかも知れない、汽車から視《なが》める、目の下に近い、門《かど》、背戸、垣根。遠くは山裾《やますそ》にかくれてた茅屋《かやや》にも、咲昇る葵《あおい》を凌《しの》いで牡丹を高く見たのであった。が、こんなに心易い処に咲いたのには逢わなかった。またどこにもあるまい。細竹一節の囲《かこい》もない、酔え
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