れました。めの字のかみさんが幸い髪結《かみゆい》をしていますから、八丁堀へ世話になって、梳手《すきて》に使ってもらいますわ。
早瀬 すき手にかい。
お蔦 ええ、修業をして。……貴方よりさきへ死ぬまで、人さんの髪を結《ゆ》ましょう。私は尼になった気で、(風呂敷を髪に姉《あね》さんかぶりす)円髷《まるまげ》に結《い》って見せたかったけれど、いっそこの方が似合うでしょう。
早瀬 (そのかぶりものを、引手繰《ひったぐ》ってつつと立つ)さあ、一所に帰ろう。
お蔦 (外套を羽織らせながら)あの……今夜は内へ帰っても可《い》いの。
早瀬 よく、肯分《ききわ》けた、お蔦、それじゃ、すぐに、とぼとぼと八丁堀へ行く気だったか。
お蔦 ええ、そうよ。……じゃ、もう一度、雀に餌《えさ》が遣れるのね、よく馴染《なじ》んで、※[#「木+靈」、第3水準1−86−29]子窓《れんじまど》の中まで来て、可愛いッたらないんですもの。……これまで別れるのは辛かったわ。
早瀬 何も言わん。さあ、せめて、かえりに、好きな我儘《わがまま》を云っておくれ。
お蔦 (猶予《ためら》いつつ)手を曳《ひ》いて。
[#ここから1字下げ、折
前へ 次へ
全23ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング