山は、自分の体か、人のものか、よくは解らず、何となく後《うしろ》見らるるような気がするので、振返って見ますると、障子が一枚、その外に雨戸が一枚、明らさまに開《あ》いて月が射《さ》し、露なり、草なり、野も、山も、渺々《びょうびょう》として、鶏《とり》、犬の声も聞えませぬ。何よりもまず気遣わしい、お雪はと思う傍《そば》に、今息を吸取られて仆《たお》れたと同じ形になって、生死《しょうじ》は知らず、姿ばかりはありました。
 小宮山は冷たい汗が流れるばかり、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、と隣で操り進む百万遍の声。
「姐《ねえ》さん、姐さん、」
 小声で呼んでみたが返事がないので、もしやともう耐《たま》らず、夜具の上から揺振《ゆすぶ》りました。
「お雪さん。」
 三声ばかり呼ぶと、細く目を開いて小宮山の顔を見るが否や、さもさも物に恐れた様子で、飛着くように、小宮山の帯に縋《すが》り、身を引緊《ひきし》めるようにして、坐った膝に突伏《つッぷ》しまする。戦《おのの》く背中を小宮山はしっかと抱《いだ》いた、様子は見届けたのでありまするから、哀れさもまた百倍。
 怖さは小宮山も同じ事
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