少しずつ分けて頂いて、貴下《あなた》のお身体《からだ》に恙《つつが》のないようにされますけれども、どうも御様子が変でございます。お怪我でもあってはなりません。内へお通いつけのお客様で、お若さんとどんなに御懇意な方でも、ついぞこちらへはいらっしった験《ためし》のございませんのに、しかもあなた、こういう晩、更けてからおいで遊ばしたのも御介抱を申せという、成田様のおいいつけででもございましょう。
 悪いことは申しませんから、お泊んなさいまし、ね、そうなさいまし。
 そしてお若さんもお炬燵《こた》へ、まあ、いらっしゃいまし、何ぞお暖《あったか》なもので縁起直しに貴下一口差上げましょうから、
 あれさ、何は差置きましてもこの雪じゃありませんかねえ。」
「実はどういうんだか、今夜の雪は一片《ひとつ》でも身体《からだ》へ当るたびに、毒虫に螫《ささ》れるような気がするんです。」
 と好個の男児何の事ぞ、あやかしの糸に纏《まと》われて、備わった身の品を失うまで、かかる寒さに弱ったのであった。
「ですからそうなさいまし、さあ御安心。お若さん宜《よ》うございましょう? 旦那はあちらで十二時までは受合お休み、
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