り》を乗せてがらがらがら。

       二

 あとは往来《ゆきき》がばったり絶えて、魔が通る前後《あとさき》の寂たる路《みち》かな。如月《きさらぎ》十九日の日がまともにさして、土には泥濘《ぬかるみ》を踏んだ足跡も留《とど》めず、さりながら風は颯々《さつさつ》と冷く吹いて、遥《はるか》に高い処で払《はたき》をかける。
「串戯《じょうだん》じゃあねえ、」と若い者は立直って、
「紺屋《こうや》じゃあねえから明後日《あさって》とは謂《い》わせねえよ。楼《うち》の妓衆《おいらん》たちから三|挺《ちょう》ばかり来てる筈《はず》だ、もう疾《とっ》くに出来てるだろう、大急ぎだ。」
「へいへい。いやまた家業の方は真面目《まじめ》でございス、捨さん。」
「うむ、」
「出来てるにゃ出来てます、」と膝かけからすぽりと抜けて、行火《あんか》を突出しながらずいと立つ。
 若いものは心付いたように、ハアトと銘のあるのを吸いつける。
 五助は背後向《うしろむき》になって、押廻して三段に釣った棚に向い、右から左のへ三度ばかり目を通すと、無慮四五百挺の剃刀《かみそり》の中から、箱を二挺、紙にくるんだのを一挺、目方を
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