込《こみ》で、炬燵《こたつ》で附合ってくんねえ。一体ならお勝さんが休もうという日なんだけれど、限って出てしまったのも容易でねえ。
 そうかといって、宿場で厄介になろうという年紀《とし》じゃあなし、無茶に廓《くるわ》へ入るかい、かえって敵に生捉《いけど》られるも同然だ。夜が更けてみな、油に燈心だから堪《たま》るめえじゃねえか、恐しい。名代《みょうだい》部屋の天井から忽然《こつねん》として剃刀が天降《あまくだ》ります、生命《いのち》にかかわるからの。よ、隣のは筋が可《い》いぜ、はんぺんの煮込を御厄介になって、別に厚切な鮪《まぐろ》を取っておかあ、船頭、馬士《うまかた》だ、お前とまた昔話でもはじめるから、」と目金に恥じず悄《しょ》げたりけり。
 作平が悦喜《えっき》斜《ななめ》ならず、嬉涙《うれしなみだ》より真先《まっさき》に水鼻を啜《すす》って、
「話せるな、酒と聞いては足腰が立たぬけれども、このままお輿《みこし》を据えては例のお花主《とくい》に相済まぬて。」
「それを言うなというに。無縁塚をお花主《とくい》だなぞと、とかく魔の物を知己《ちかづき》にするから悪いや、で、どうする。」
「もう
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