方へ、紺足袋に日和下駄《ひよりげた》、後の減ったる代物《しろもの》、一体なら此奴《こいつ》豪勢に発奮《はず》むのだけれども、一進が一十《いっし》、二八《にっぱち》の二月で工面が悪し、霜枯《しもがれ》から引続き我慢をしているが、とかく気になるという足取《あしどり》。
ここに金鍔《きんつば》屋、荒物屋、煙草《たばこ》屋、損料屋、場末の勧工場《かんこうば》見るよう、狭い店のごたごたと並んだのを通越すと、一|間《けん》口に看板をかけて、丁寧に絵にして剪刀《はさみ》と剃刀《かみそり》とを打違《ぶっちが》え、下に五すけと書いて、親仁《おやじ》が大|目金《めがね》を懸けて磨桶《とぎおけ》を控え、剃刀の刃を合せている図、目金と玉と桶の水、切物《きれもの》の刃を真蒼《まっさお》に塗って、あとは薄墨でぼかした彩色《さいしき》、これならば高尾の二代目三代目時分の禿《かむろ》が使《つかい》に来ても、一目して研屋《とぎや》の五助である。
敷居の内は一坪ばかり凸凹のたたき土間。隣のおでん屋の屋台が、軒下から三分が一ばかり此方《こなた》の店前《みせさき》を掠《かす》めた蔭に、古布子《ふるぬのこ》で平胡坐《ひらあ
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