蜘蛛の巣を指して、そう言ったからであった。
裸体に、被《かず》いて、大旗の下を行く三人の姿は、神官の目に、実《げ》に、紅玉《ルビイ》、碧玉《サファイヤ》、金剛石《ダイヤモンド》、真珠、珊瑚を星のごとく鏤《ちりば》めた羅綾《らりょう》のごとく見えたのである。
神官は高足駄で、よろよろとなって、鳥居を入ると、住居《すまい》へ行《ゆ》かず、階《きざはし》を上《あが》って拝殿に入った。が、額の下の高麗《こうらい》べりの畳の隅に、人形のようになって坐睡《いねむ》りをしていた、十四になる緋《ひ》の袴《はかま》の巫女《みこ》を、いきなり、引立てて、袴を脱がせ、衣《きぬ》を剥《は》いだ。……この巫女は、当年初に仕えたので、こうされるのが掟《おきて》だと思って自由になったそうである。
宮奴《みやっこ》が仰天した、馬顔の、痩《や》せた、貧相な中年もので、かねて吶《どもり》であった。
「従、従、従、従、従七位、七位様、何《な》、何、何、何事!」
笏《しゃく》で、ぴしゃりと胸を打って、
「退《すさ》りおろうぞ。」
で、虫の死んだ蜘蛛の巣を、巫女の頭《かしら》に翳《かざ》したのである。
かつて、山神
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