々《たどたど》しいに附けても、心も空も真白《まっしろ》に跣足《はだし》というのが身に染みる。
――しかし可訝《おか》しい、いや可訝しくはない、けれども妙だ、――あの時、そうだ、久しぶりに逢って、その逢ったのが、その晩ぎり……またわかれになった。――しかもあの時、思いがけない、うっかりした仕損《しそこな》いで、あの、お染《そめ》の、あの体《からだ》に、胸から膝へ血を浴びせるようなことをした。――
※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》せば、我が袖も、他《ひと》の垣根も雪である。
――去年の夏、たしか八月の末と思う、――
その事のあった時、お染は白地|明石《あかし》に藍《あい》で子持縞《こもちじま》の羅《うすもの》を着ていたから、場所と云い、境遇も、年増の身で、小さな芸妓屋《げいしゃや》に丸抱えという、可哀《あわれ》な流《ながれ》にしがらみを掛けた袖も、花に、もみじに、霜にさえその時々の色を染める。九月と云えば、暗いのも、明《あかる》いのも、そこいら、……御神燈|並《なみ》に、絽《ろ》なり、お召《めし》なり単衣《ひとえもの》に衣更《きか》える筈《はず》。……しょぼしょ
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