ら不気味で脱いだ、そして蒲団の下へ掛けたと云う。
「何より不気味だね、衣類《きもの》の濡れるのは。……私、聞いても悚然《ぞっと》する。……済まなかった。お染さん。」
女はそこで怨んだ。
帰る途《みち》すがらも、真実の涙を流した言訳を聞いて、暖い炬燵の膚《はだ》のぬくもりに、とけた雪は、斉《ひと》しく女の瞳に宿った。その時のお染の目は、大《おおき》く※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》られて美しかった。
「女中《ねえ》さんは。」
「女中か、私はね、雪でひとりでに涙が出ると、茫《ぼ》っと何だか赤いじゃないか。引擦《ひっこす》ってみるとお前、つい先へ提灯《ちょうちん》が一つ行くんだ。やっと、はじめて雪の上に、こぼこぼ下駄のあとの印《つ》いたのが見えたっけ。風は出たし……歩行《ある》き悩んだろう。先へ出た女中がまだそこを、うしろの人足《ひとあし》も聞きつけないで、ふらふらして歩行《ある》いているんだ。追着《おッつ》いてね、使《つかい》がこの使だ、手を曳《ひ》くようにして力をつけて、とぼとぼ遣《や》りながら炬燵の事も聞いたよ。
しんせつついでだ、酒屋へ寄ってくれ、と云うと、二
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