添臥《そいぶし》※[#「参候」のくずし字、284−1]。夜ごとにかわる何とかより針の筵《むしろ》に候えども、お前さまにお目もうじのなごりと思い候えば、それさえうつつ心に嬉しく懐しく存じ※[#「参候」のくずし字、284−3]……
ふくみ洗いで毎晩抱く、あの明石のしみを。行かれるものか、素手で、どうして。
秋の半ばに、住《すみ》かえた、と云って、ただそれだけ、上州伊香保から音信《たより》があった。
やがてくわしく、と云うのが、そのままになった――今夜なのである。
俊吉は捗取《はかど》らぬ雪を踏《ふみ》しめ踏しめ、俥《くるま》を見送られた時を思出すと、傘も忘れて、降る雪に、頭《つむり》を打たせて俯向《うつむ》きながら、義理と不義理と、人目と世間と、言訳なさと可懐《なつか》しさ、とそこに、見える女の姿に、心は暗《やみ》の目は※[#「りっしんべん+(「夢」の「夕」に代えて「目」)」、第4水準2−12−81]《ぼう》として白い雪、睫毛《まつげ》に解けるか雫《しずく》が落ちた。
十一
「……そういったわけだもの、ね、……そんなに怨むもんじゃない。」
襦袢一重の女の背《せな
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