》れながら、羅《うすもの》の袖を開いて見せて、
「汚点《しみ》になりましょうねえ。」
「まあ、ねえ、どうも。」
と伸上ったり、縮んだり。
「何しろ、脱がなくッちゃお前さん、直き乾くだけは乾きますからね……あちらへ来て。さあ――旦那、奥様のお膚《はだ》を見ますよ、済みませんけれど、貴下《あなた》が邪慳《じゃけん》だから仕方が無い。……」
俊吉は黙って横を向いた。
「浴衣と、さあ、お前さん、」
と引立てるようにされて、染次は悄々《しおしお》と次に出た。……組合の気脉《きみゃく》が通《かよ》って、待合の女房も、抱主《かかえぬし》が一張羅《いっちょうら》を着飾らせた、損を知って、そんなに手荒にするのであろう、ああ。
十
「大丈夫よ……大丈夫よ。」
「飛んだ、飛んだ事を……お前、主人にどうするえ。」
「まさか、取って食おうともしませんから、そんな事より。」
と莞爾《にっこり》した、顔は蒼白《あおじろ》かったが、しかしそれは蚊帳の萌黄《もえぎ》が映ったのであった。
帰る時は、効々《かいがい》しくざっと干したのを端折《はしょ》って着ていて、男に傘を持たせておいて、止せと云
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