の肩を抱いた。
「どうなさいました。」と女房飛込み、この体《てい》を一目見るや、
「雑巾々々。」と宙に躍って、蹴返《けかえ》す裳《もすそ》に刎《は》ねた脚は、ここに魅《さ》した魔の使《つかい》が、鴨居《かもい》を抜けて出るように見えた。
女の袖つけから膝へ湛《たま》って、落葉が埋《うず》んだような茶殻を掬《すく》って、仰向《あおむ》けた盆の上へ、俊吉がその手の雫《しずく》を切った時。
「可《よ》ござんすよ、可ござんすよ、そうしてお置きなさいまし、今|私《わたくし》が、」
と言いながら白に浅黄を縁《へり》とりの手巾《ハンケチ》で、脇を圧《おさ》えると、脇。膝をずぶずぶと圧えると、膝を、濡れたのが襦袢を透《とお》して、明石の縞《しま》に浸《にじ》んでは、手巾にひたひたと桃色の雫を染めた。――
「ええ、私あの時の事を思出したの、短刀で、ここを切られた時、」……
と、一年おいて如月《きさらぎ》の雪の夜更けにお染は、俊吉の矢来の奥の二階の置炬燵《おきごたつ》に弱々と凭《もた》れて語った。
さてその夜は、取って返して、両手に雑巾を持って、待合の女房が顕《あらわ》れたのに、染次は悄《しお
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