》い微笑《ほほえみ》。
九
「失礼な、どうも奥様をお呼立て申しまして済みません。でも、お差向いの処へ、他人が出ましてはかえってお妨げ、と存じまして、ねえ、旦那。」
と襖越に待合の女房が云った。
ぴたりと後手《うしろで》にその後を閉めたあとを、もの言わぬ応答《うけこたえ》にちょっと振返って見て、そのまま片手に茶道具を盆ごと据えて立直って、すらりと蹴出《けだ》しの紅《くれない》に、明石の裾を曳《ひ》いた姿は、しとしとと雨垂れが、子持縞《こもちじま》の浅黄に通って、露に活《い》きたように美しかった。
「いや。」
とただ間拍子《まびょうし》もなく、女房の言いぐさに返事をする、俊吉の膝へ、衝《つ》と膝をのっかかるようにして盆ごと茶碗を出したのである。
茶を充満《いっぱい》の吸子《きびしょ》が一所に乗っていた。
これは卓子台《ちゃぶだい》に載《の》せると可《よ》かった。でなくば、もう少し間《なか》を措《お》いて居《すわ》れば仔細《しさい》なかった。もとから芸妓《げいしゃ》だと離れたろう。前《さき》の遊女《おいらん》は、身を寄せるのに馴《な》れた。しかも披露目《ひろめ》の
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