ございますが。」
と立塞《たちふさ》がるように、しかも、遁《にが》すまいとするように、框《かまち》一杯にはだかるのである。
「ちょっとお呼び下さいませんか。」
ああ、来なければ可《よ》かった、奥も無さそうなのに、声を聞いて出て来ないくらいなら、とがっくり泥濘《ぬかるみ》へ落ちた気がする。
「唯今《ただいま》お湯へ参ってますがね、……まあ、貴方《あなた》。」と金壺眼はいよいよ光った。
「それじゃまた来ましょう。」
「まあ、貴方。」
風体を見定めたか、慌《あわただ》しく土間へ片足を下ろして、
「直《じ》きに帰りますから、まあ、お上んなさいまし。」
「いや、途中で困ったから傘を借りたいと思ったんですが、もう雨も上りましたよ。」
「あら、貴方、串戯《じょうだん》じゃありません。私が染ちゃんに叱られますわ、お帰し申すもんですかよ。」
七
「相合傘でいらっしゃいまし、染ちゃん、嬉しいでしょう、えへへへへ、貴方、御機嫌よう。」
と送出した。……
傘《からかさ》は、染次が褄《つま》を取ってさしかける。
「可厭《いや》な媽々《かかあ》だな。」
「まだ聞えますよ。」
と下へ、
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