はるか》な他国の廓《くるわ》で、夜更けて寝乱れた従妹《いとこ》にめぐり合って、すがり寄る、手の緋縮緬《ひぢりめん》は心の通う同じ骨肉の血であるがごとく胸をそそられたのである。
 抱えられた家も、勤めの名も、手紙のたよりに聞いて忘れぬ。
「可《よ》し。」
 肩を揺《ゆす》って、一ツ、胸で意気込んで、帽子を俯向《うつむ》けにして、御堂の廂《ひさし》を出た。……
 軽い雨で、もう面《おもて》を打つほどではないが、引緊《ひきし》めた袂《たもと》重たく、しょんぼりとして、九十九折《つづらおり》なる抜裏、横町。谷のドン底の溝《どぶ》づたい、次第に暗き奥山路《おくやまみち》。

       六

 時々足許から、はっと鳥の立つ女の影。……けたたましく、可哀《あわれ》に、心悲《うらがな》しい、鳶《とび》にとらるると聞く果敢《はか》ない蝉の声に、俊吉は肝を冷しつつ、※[#「火+發」、269−9]々《ぱっぱっ》と面《おもて》を照らす狐火《きつねび》の御神燈に、幾たびか驚いて目を塞《ふさ》いだが、路も坂に沈むばかり。いよいよ谷深く、水が漆《うるし》を流した溝端《どぶばた》に、茨《いばら》のごとき格子|前《
前へ 次へ
全42ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング