……染ちゃんと云う年紀《とし》ではない。遊女《つとめ》あがりの女をと気がさして、なぜか不思議に、女もともに、侮《あなど》り、軽《かろ》んじ、冷評《ひやか》されたような気がして、悚然《ぞっ》として五体を取って引緊《ひきし》められたまで、極《きま》りの悪い思いをしたのであった。
 いわゆる、その(お出ばな)のためであった、女に血を浴びせるような事の起ったのは。
 思えば、その女には当夜は云うまでもなく、いつも、いつまでも逢うべきではなかったのである。
 はじめ、無理をして廓《くるわ》を出たため、一度、町の橋は渡っても、潮に落行かねばならない羽目で、千葉へ行って芸妓《げいしゃ》になった。
 その土地で、ちょっとした呉服屋に思われたが、若い男が田舎|気質《かたぎ》の赫《かッ》と逆上《のぼ》せた深嵌《ふかはま》りで、家も店も潰《つぶ》した果《はて》が、女房子を四辻へ打棄《うっちゃ》って、無理算段の足抜きで、女を東京へ連れて遁《に》げると、旅籠住居《はたごずまい》の気を換える見物の一夜。洲崎《すさき》の廓《くるわ》へ入った時、ここの大籬《おおまがき》の女を俺が、と手折《たお》った枝に根を生《はや》
前へ 次へ
全42ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング