》立《た》つ。

       四

「この、お前さん手巾《ハンケチ》でさ、洋傘《かさ》の柄を、しっかりと握って歩行《ある》きましたんですよ。
 あとへ跟《つ》いて来る女房《おかみ》さんの風俗《ふう》ッたら、御覧なさいなね。人の事を云えた義理じゃないけれど、私よりか塗立って、しょろしょろ裾長《すそなが》か何かで、鬢《びん》をべったりと出して、黒い目を光らかして、おまけに腕まくりで、まるで、売《うり》ますの口上言いだわね。
 察して下さいな。」
 と遣瀬《やるせ》なげに、眉をせめて俯目《ふしめ》になったと思うと、まだその上に――気障《きざ》じゃありませんか、駈出《かけだ》しの女形がハイカラ娘の演《す》るように――と洋傘《かさ》を持った風采《なり》を自ら嘲《あざわら》った、その手巾《ハンケチ》を顔に当てて、水髪や荵《しのぶ》の雫《しずく》、縁に風りんのチリリンと鳴る時、芸妓《げいこ》島田を俯向《うつむ》けに膝に突伏《つっぷ》した。
 その時、待合の女房が、襖越《ふすまごし》に、長火鉢の処《とこ》で、声を掛けた。
「染ちゃん、お出ばなが。」
 俊吉はこれを聞くと、女の肩に掛けていた手が震えた
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