(女の童《わらべ》を呼ぶ)その鏡を。(女の童は、錦をひらく。手にしつつ)――的《まと》、的、的です。あれを御覧。(空《そら》ざまに取って照らすや、森々《しんしん》たる森の梢《こずえ》一処《ひとところ》に、赤き光|朦朧《もうろう》と浮き出《い》づるとともに、テントツツン、テントツツン、下方《したかた》かすめて遥《はるか》にきこゆ)……見えたか。
お沢 あれあれ、彼処《あすこ》に――憎らしい。ああ、お姫様。
媛神 ちゃんとお狙《ねら》い。
お沢 畜生《ちくしょう》!(切って放つ。)
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一陣の迅《はや》き風、一同|聳目《しょうもく》し、悚立《しょうりつ》す。
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巫女 お見事や、お見事やの。(しゃがれた笑《わらい》)おほほほほ。(凄《すご》く笑う。)
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吹《ふき》つのる風の音|凄《すさ》まじく、荒波の響きを交う。舞台暗黒。少時《しばらく》して、光さす時、巫女。ハタと藁人形を擲《なげう》つ。その位置の真上より振袖落ち、紅《くれない》の裙《すそ》翻り、道成寺の白拍子の姿、一たび宙に流れ
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