、三宝《さんぽう》にのったものは、あとで、食べるのは、あなた方《がた》ではありませんか。
神職 えっ、えっ、それは決して正しき神のお言葉ではない。(わななきながら八方《はっぽう》を礼拝《らいはい》す。禰宜《ねぎ》、仕丁《しちょう》、同じく背《そむ》ける方《かた》を礼拝す。)
媛神 邪《よこしま》な神のすることを御覧――いま目《ま》のあたりに、悪魔、鬼畜と罵《ののし》らるる、恋の怨《うらみ》の呪詛《のろい》の届く験《しるし》を見せよう。(静《しずか》に階《きざはし》を下《お》りてお沢に居寄《いよ》り)ずっとお立ち――私《わたし》の袖に引添うて、(巫女《みこ》に)姥《うば》、弓をお持ちか。
巫女 おお、これに。(梓《あずさ》の弓を取り出す。)
媛神 (お沢に)その弓をお持ちなさい。(簪《かんざし》の箭《や》を取って授けつつ)楊弓《ようきゅう》を射るように――釘《くぎ》を打って呪詛《のろ》うのは、一念の届くのに、三月《みつき》、五月《いつつき》、三|年《ねん》、五年、日と月と暦《こよみ》を待たねばなりません。いま、見るうちに男の生命《いのち》を、いいかい、心をよく静めて。――唐輪《からわ》。
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