それが何《なん》になるものぞ。いい女が相好《そうごう》崩《くず》して見っともない。何も言わずに、心に怨んで、薄情ものに見せしめに、命の咒詛《のろい》を、貴女《あなた》様へ願掛《がんが》けさしゃった、姉《あね》さんは、おお、お怜悧《りこう》だの。いいお娘《こ》だ。いいお娘《こ》だ。さて何《なん》とや、男の生命《いのち》を取るのじゃが、いまたちどころに殺すのか。手を萎《なや》し、足を折り、あの、昔|田之助《たのすけ》とかいうもののように胴中《どうなか》と顔ばかりにしたいのかの、それともその上、口も利かせず、死んだも同様にという事かいの。
お沢 ええ、もう一層《いっそ》(屹《きっ》と意気組む)ひと思いに!
巫女 お姫様、お聞きの通りでござります。
媛神 男は?
巫女 これを御覧遊ばされまし。(胸の手箱を高く捧げ、さし翳《かざ》して見せ参らす。)
媛神 花の都の花の舞台、咲いて乱れた花の中に、花の白拍子《しらびょうし》を舞っている……
巫女 座頭俳優《ざがしらやくしゃ》が所作事《しょさごと》で、道成寺《どうじょうじ》とか、……申すのでござります。
神職 ははっ、ははっ、恐れながら、御神《おんか
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