神職の足近く、どさと差置く。)
神職 神のおおせじゃ、婦《おんな》、下におれ。――誰《た》ぞ御灯《みあかし》をかかげい――(村人一人、燈《とう》を開《ひら》く。灯《ひ》にすかして)それは何だ。穿出《ほりだ》したものか、ちびりと濡《ぬ》れておる。や、(足を爪立《つまだ》つ)蛇《へび》が絡《から》んだな。
禰宜 身《み》どもなればこそ、近う寄っても見ましたれ。これは大木《たいぼく》の杉の根に、草にかくしてござりましたが、おのずから樹《き》の雫《しずく》のしたたります茂《しげみ》ゆえ、びしゃびしゃと濡れております。村の衆は一目見ますと、声も立てずに遁《に》ぎょうとしました。あの、円肌《まるはだ》で、いびつづくった、尾も頭も短う太い、むくりむくり、ぶくぶくと横にのたくりまして、毒気《どくき》は人を殺すと申す、可恐《おそろし》く、気味の悪い、野槌《のづち》という蛇そのままの形に見えました。なれども、結んだのは生蛇《なまへび》ではござりませぬ。この悪念でも、さすがは婦《おんな》で、包《つつみ》を結《ゆわ》えましたは、継合《つぎあ》わせた蛇の脱殻《ぬけがら》でござりますわ。
神職 野槌か、ああ、聞い
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