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仕丁、その言《ことば》の如くにす。――
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お沢 あの……(ふるえながら差出す手を、払いのけて、仕丁。森に行く。帯を投げるとともに飛返《とびかえ》る。)
神職 何《なん》とした。
仕丁 ずるずるずると巻きましたが、真黒な一幅《ひとはば》になって、のろのろと森の奥へ入《はい》りました。……大方《おおかた》、釘を打込みます古杉の根へ、一念で、巻きついた事でござりましょう。
神職 いずれ、森の中において、忌《いま》わしく、汚らわしき事をいたしおるは必定《ひつじょう》じゃ。さて、婦。……今日《きょう》は昼から籠《こも》ったか。真直《まっすぐ》に言え、御前《おんまえ》じゃぞ。
お沢 はい、(間《ま》)はい、あの、一七日《いちしちにち》の満願まで……この願《ねがい》を掛けますものは、唯|一目《ひとめ》、……一度でも、人の目に掛《かか》りますと、もうそれぎりに、願《ねがい》が叶《かな》わぬと申します。昨夜《ゆうべ》までは、獣《けもの》の影にも逢《あ》いません。もう一夜《ひとよ》、今夜だけ、また不思議に満願の夜《よ》といいますと、
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