沢の両手をもて犇《ひし》と蔽《おお》う乱れたる胸に、岸破《がば》と手を差入《さしいれ》る)あれ、あれえ。
神職 (発《あば》き出したる形代《かたしろ》の藁《わら》人形に、すくすくと釘の刺《ささ》りたるを片手に高く、片手に鉄槌を翳《かざ》すと斉しく、威丈高《いたけだか》に突立上《つッたちあが》り、お沢の弱腰《よわごし》を※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》と蹴《け》る)汚らわしいぞ! 罰当《ばちあた》り。
お沢 あ。(階《きざはし》を転《まろ》び落つ。)
神職 鬼畜、人外《にんがい》、沙汰《さた》の限りの所業をいたす。
禰宜 いや何とも……この頃《ごろ》の三《み》晩|四《よ》晩、夜《よ》ふけ小《さ》ふけに、この方角……あの森の奥に当って、化鳥《けちょう》の叫ぶような声がしまするで、話に聞く、咒詛《のろい》の釘かとも思いました。なれど、場所|柄《がら》ゆえの僻耳《ひがみみ》で、今の時節に丑《うし》の刻参《ときまいり》などは現《うつつ》にもない事と、聞き流しておったじゃが、何と先《ま》ず……この雌鬼《めすおに》を、夜叉《やしゃ》を、眼前に見る事わい。それそれ俯向《うつむ》い
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