、きりきりと舞いつつ真倒《まっさかさ》に落つ。もとより、仕掛けもの造りものの人形なるべし。神職、村人ら、立騒ぐ。
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お沢 ああ、どうしましょう、あれ、(その胸、その手を捜ろうとして得ず、空《むな》しく掻捜《かいさぐ》るのみ。)
媛神 それは幻、あなたの鏡に映るばかり、手に触《さわ》るのではありません。
お沢 ああ唯貴女のお姿ばかり、暗い思《おもい》は晴れました。媛神《ひめがみ》様、お嬉しう存じます。
丁々坊 お使いのもの!(森の梢に大音《だいおん》あり)――お髪《ぐし》の御矢《おんや》、お返し申し上ぐる。……唯今。――(梢より先ず呼びて、忽ち枝より飛び下《くだ》る。形は山賤《やまがつ》の木樵《きこり》にして、翼《つばさ》あり、面《おもて》は烏天狗《からすてんぐ》なり。腰に一挺《いっちょう》の斧《おの》を帯ぶ)御矢をばそれへ。――(女の童《わらべ》。階《きざはし》を下《お》り、既にもとにつつみたる、錦の袋の上に受く。)
媛神 御苦労ね。
巫女 我折《がお》れ、お早い事でござりましたの。
丁々坊 瞬《またた》く間《ま》というは、凡《およ》そこれでござるな。何が、芝居《しばい》は、大山《おおやま》一つ、柿《かき》の実《みの》ったような見物でござる。此奴《こやつ》、(白拍子)別嬪《べっぴん》かと思えば、性《しょう》は毛むくじゃらの漢《おのこ》が、白粉《おしろい》をつけて刎《は》ねるであった。
巫女 何を、何を言うぞいの。何ごとや――山にばかりおらんと世の中を見さっしゃれ、人が笑いますに。何を言うぞいの。
丁々坊 何か知らぬが、それは措《お》け。はて、何《なん》とやら、テンツルテンツルテンツルテンか、鋸《のこぎり》で樹《き》をひくより、早間《はやま》な腰を振廻《ふりまわ》いて。やあ。(不器用千万なる身ぶりにて不状《ぶざま》に踊りながら、白拍子のむくろを引跨《ひんまた》ぎ、飛越え、刎越《はねこ》え、踊る)おもえばこの鐘うらめしやと、竜頭《りゅうず》に手を掛け飛ぶぞと見えしが、引《ひっ》かついでぞ、ズーンジャンドンドンジンジンジリリリズンジンデンズンズン(刎上《はねあが》りつつ)ジャーン(忽《たちま》ち、ガーン、どどど凄《すさま》じき音す。――神職ら腰をつく。丁々坊《ちょうちょうぼう》、落着き済まして)という
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