けが。」
「当前《あたりまえ》です、学校の用を欠いて、そんな他愛《たわい》もない事にかかり合っていられるもんかい。休暇になったから運動かたがた来て見たんだ。」
「へ、お前様なんざ、畳が刎《は》ねるばかりでも、投飛ばされる御連中だ。」
「何を、」
「私《わし》なんざ臆病《おくびょう》でも、その位の事にゃ馴《な》れたでの、船へ乗った気で押《おっ》こらえるだ。どうしてどうして、まだ、お前……」
「宰八よ、」
 と陰気な声する。
「おお、」
「ぬしゃまた何も向う面《づら》になって、おかしなもののお味方をするにゃ当るめえでねえか。それでのうてせえ、おりゃ重いもので押伏《おっぷ》せられそうな心持だ。」
 と溜息《ためいき》をして云った。浮世を鎖《とざ》したような黒門の礎《いしずえ》を、靄《もや》がさそうて、向うから押し拡がった、下闇《したやみ》の草に踏みかかり、茂《しげり》の中へ吸い込まれるや、否や、仁右衛門が、
「わっ、」
 と叫んだ。

       二十一

「はじめの夜は、ただその手毬《てまり》が失《う》せましただけで、別に変った事件《こと》も無かったでございますか。」
 と、小次郎法師の
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