急いで障子の外へ出て見ている内に、床の間に据えて置いた、その手毬がさ。はい、忽然《こつねん》と消えちゅうは、……ここの事だね。」
「消えたか、落したか分るもんか。」
「はあ、分らねえから、変でがしょ、」
「何もちっとも変じゃない。いやしくも学校のある土地に不思議と云う事は無いのだから。」
「でも、お前様《めえさま》、その猫がね、」
「それも猫だか、鼬《いたち》だか、それとも鼠だが[#「だが」はママ]、知れたもんじゃない。森の中だもの、兎《うさぎ》だって居るかも知れんさ。」
「そのお前様、知れねえについてでがさ。」
「だから、今夜行って、僕が正体を見届けてやろうと云うんだ。」
「はい、どうぞ、願えますだ。今までにも村方で、はあ、そんな事を言って出向いたものがの、なあ、仁右衛門。」
無言なり。
「前方《さき》へ行って目をまわしっけ、」
「馬鹿、」
と憤然《むっ》とした調子で呟《つぶや》く。
きかぬ気の宰八、紅《くれない》の鋏《はさみ》を押立《おった》て、
「お前様もまた、馬鹿だの、仁右衛門だの、坊様だの、人大勢の時に、よく今夜来さしった。今まではハイついぞ行って見ようとも言わねえだっ
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