なたも。……口惜《くやし》い、)と恍惚《うっとり》して、枕にひしと喰《くい》つかしって、うむと云うが最期で、の、身二ツになりはならしったが、産声も聞えず、両方ともそれなりけり。
余りの事に、取逆上《とりのぼ》せさしったものと見えまして、喜太郎様はその明方、裏の井戸へ身を投げてしまわしった。
井戸|替《がえ》もしたなれど、不気味じゃで、誰も、はい、その水を飲みたがりませぬ処から、井桁《いげた》も早や、青芒《あおすすき》にかくれましたよ。
七日に一度、十日に一度、仁右衛門親仁や、私《わし》がとこの宰八――少《わか》いものは初《はじめ》から恐ろしがって寄《よっ》つきませぬで――年役に出かけては、雨戸を明けたり、引窓を繰ったり、日も入れ、風も通したなれど、この間のその、のう、嘉吉が気が違いました一件の時から、いい年をしたものまで、黒門を向うの奥へ、木下闇《このしたやみ》を覗《のぞ》きますと、足が縮《すく》んで、一寸も前へ出はいたしませぬ。
簪《かんざし》の蒼い光った珠《たま》も、大方蛍であろう、などと、ひそひそ風説《うわさ》をします処へ、芋※[#「くさかんむり/更」、160−11]《ず
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