その後を水が走って、早や東雲《しののめ》の雲白く、煙のような潦《にわたずみ》、庭の草を流るる中に、月が沈んで舟となり、舳《へさき》を颯《さっ》と乗上げて、白粉《おしろい》の花越しに、すらすらと漕《こ》いで通る。大魔の袖や帆となりけん、美女《たおやめ》は船の几帳《きちょう》にかくれて、
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(ここはどこの細道じゃ、
       細道じゃ、
 天神様の細道じゃ、
       細道じゃ、
 少し通して下さんせ……)
[#ここで字下げ終わり]
 最切《いとせ》めて懐《なつか》しく聞ゆ、とすれば、樹立《こだち》の茂《しげり》に哄《どっ》と風、木の葉、緑の瀬を早み……横雲が、あの、横雲が。
[#地から1字上げ]明治四十一(一九〇八)年一月



底本:「泉鏡花集成5」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年2月22日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第十一卷」岩波書店
   1941(昭和16)年8月15日第1刷発行
※疑問点の確認にあたっては、底本の親本を参照しました。
※「それとも鼠だが」の「だが」は、底本の親本でもママですが、岩波文庫版では「だか」とな
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