《おきて》を破って、母君が、雲の上の高楼《たかどの》の、玉の欄干《らんかん》にさしかわす、桂《かつら》の枝を引寄せて、それに縋《すが》って御殿の外へ。
 空に浮《うか》んだおからだが、下界から見る月の中から、この世へ下りる間には、雲が倒《さかさま》に百千万千、一億万丈の滝となって、ただどうどうと底知れぬ下界の霄《そら》へ落ちている。あの、その上を、ただ一条《ひとすじ》、霞のような御裳《おすそ》でも、撓《たわわ》に揺れる一枝《ひとえだ》の桂をたよりになさる危《あぶな》さ。
 おともだちの上※[#「くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1−91−26]《じょうろう》たちが、ふと一人見着けると、にわかに天楽の音《ね》を留《とど》めて、はらはらと立《たち》かかって、上へ桂を繰り上げる。引留められて、御姿が、またもとの、月の前へ、薄色のお召物で、笄《こうがい》がキラキラと、星に映って見えましょう。
 座敷で暗《やみ》から不意にそれを。明さんは、手を取合ったは仇《あだ》し婦《おんな》、と気が着くと、襖《ふすま》も壁も、大紅蓮《だいぐれん》。跪居《ついい》る畳は針の筵《むしろ》。袖には蛇《くちなわ》、
前へ 次へ
全189ページ中180ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング