その飲んだくれます事、怠ける工合《ぐあい》、まともな人間から見ますれば、真《ほん》に正気の沙汰《さた》ではござりませなんだが、それでもどうやら人並に、正月はめでたがり、盆は忙しがりまして、別に気が触れた奴《やつ》ではござりません。いつでも村の御祭礼《おまつり》のように、遊ぶが病気《やまい》でござりましたが、この春頃に、何と発心をしましたか、自分が望みで、三浦三崎のさる酒問屋《さかどいや》へ、奉公をしたでござります。
 つい夏の取着《とッつ》きに、御主人のいいつけで、清酒《すみざけ》をの、お前様、沢山《たんと》でもござりませぬ。三樽《みたる》ばかり船に積んで、船頭殿が一人、嘉吉めが上乗《うわの》りで、この葉山の小売|店《みせ》へ卸しに来たでござります。
 葉山森戸などへ三崎の方から帰ります、この辺のお百姓や、漁師たち、顔を知ったものが、途中から、乗《のっ》けてくらっせえ、明いてる船じゃ、と渡場《わたしば》でも船つきでもござりませぬ。海岸の岩の上や、磯《いそ》の松の根方から、おおいおおい、と板東声《ばんどうごえ》で呼ばり立って、とうとう五人がとこ押込みましたは、以上七人になりました、よ
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