げ]
懐かしや、花の常夏《とこなつ》、
霞川に影が流れた。
その俤《おもかげ》や、俤や――
[#ここで字下げ終わり]
 紙を通して障子の彼方《かなた》に、ほの白いその俤が……どうやら透《す》いて見えるようで、固くなった耳の底で、天の高さ、地の厚さを、あらん限り、深く、遥《はるか》に、星の座も、竜宮の燈《ともしび》も同一《おなじ》遠さ、と思う辺《あたり》、黄金《こがね》の鈴を振るごとく、ただ一声《こえ》、コロリン、と琴が響いた。
 はっと半紙を見ると、瞳へチラリ。
[#ここから4字下げ]
コロリン!
[#ここで字下げ終わり]
 と字が動いたよう。続けて――
[#ここから4字下げ]
琴の音が…………
[#ここで字下げ終わり]
 と記してあった。

       四十

 客僧は思案して、心を落着け、衣紋《えもん》を直して、さて、中に仏像があるので、床の間を借りて差置いた、荷物を今解き始めたが、深更のこの挙動《ふるまい》は、木曾街道の盗賊《ものどり》めく。
 不浄よけの金襴《きんらん》の切《きれ》にくるんだ、たけ三寸ばかり、黒塗《くろぬり》の小さな御厨子《みずし》を捧げ出して、袈裟《けさ》を
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