見す見すひやりとして濡るるのは、笠なしに山寺から豆腐買いに里へ遣《や》られた、小僧の時より辛いので、堪《たま》りかねて、蚊帳の裾を引被《ひっかつ》いで出たが、さてどこを居所《いどころ》とも定まらぬ一夜の宿。
消えなんとする旅籠屋《はたごや》の行燈《かんばん》を、時雨の軒に便る心で。
僧は燈火《ともしび》[#「燈火」は底本では「灯燈」]の許《もと》に膝行《いざ》り寄った。
寝衣《ねまき》を見ると、どこも露ほども濡れてはおらぬ。まず頬のあたりから腕を拭《ふ》こうとしたほどだったのに……もとより寝床に雨垂の音は無い。
その腕を長く、つき反らして擦《さす》りながら、
「衆怨悉退散《しゅうおんしったいさん》。」
とまた念じて、静《じっ》と心を沈めると、この功徳か、蚊の声が無くなって、寂《しん》として静まり返る。
また余りの静《しずか》さに、自分の身体《からだ》が消えてしまいはせぬか、という懸念がし出して、押瞑《おしつぶ》った目を夢から覚めたように恍惚《うっとり》と、しかも円《つぶら》に開けて、真直《まっすぐ》な燈心を視透《みす》かした時であった。
飜然《ひらり》と映って、行燈《あん
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