ある。
が、雨垂《あまだれ》とも、血を吸膨れた蚊が一ツ倒れた音とも、まだ聞定めないで現《うつつ》[#ルビの「うつつ」は底本では「うつ」]でいると、またぽたり……やがて、ぽたぽたと落ちたるが、今度は確《たしか》に頬にかかった。
やっと冷たいのが知れて、掌《てのひら》で撫《な》でると、冷《ひや》りとする。身震いして少し起きかけて、旅僧は恐る恐る燈《ともしび》の影に透《すか》したが、幸《さいわい》に、血の点滴《したたり》ではない。
さては雨漏りと思う時は、蚊帳を伝って雫《しずく》するばかり、はらはらと降り灌《そそ》ぐ。
耳を澄ますと、屋根の上は大雨であるらしい。
浮世にあらぬ仮の宿にも、これほど侘《わび》しいものはない。けれども、雨漏《あまもり》にも旅馴《たびな》れた僧は、押黙って小止《おやみ》を待とうと思ったが、ますます雫は繁くなって、掻巻の裾あたりは、びしょびしょ、刎上《はねあが》って繁吹《しぶき》が立ちそう。
屋根で、鵝鳥《がちょう》が鳴いた事さえあると聞く。家ごと霞川の底に沈んだのでなかろうか。……トタンに額を打って、鼻頭《はなづら》に浸《にじ》んだ、大粒なのに、むっくと
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