遁《に》げる、と見せた、学校の訓導と、その筋の諜者《ちょうじゃ》を勤むる、狐店《きつねみせ》の親方を誘うて、この三人、十分に支度をした。
 二人は表門へ立向い、仁右衛門はただ一人、怪しきものは突殺そう。狸に化けた人間を打殺《ぶちころ》すに仔細はない、と竹槍を引《ひっ》そばめて、木戸口から庭づたいに、月あかりを辿《たど》り辿り、雨戸をあてに近づいて、何か、手品の種がありはせぬか、と透かして屋根の周囲《まわり》をぐるりと見ると。……

       三十七

 烏が一羽|歴然《ありあり》と屋根に見えた。ああ、あの下|辺《あたり》で、産婦が二人――定命とは思われぬ無残な死にようをしたと思うと、屋根の上に、姿が何やら。
 この姿は、葎《むぐら》を分けて忍び寄ったはじめから、目前《めさき》に朦朧《もうろう》と映ったのであったが、立って丈長き葉に添うようでもあり、寝て根を潜《くぐ》るようでもあるし、浮き上って葉尖《はさき》を渡るようでもあった。で、大方仁右衛門自分の身体《からだ》と、竹槍との組合せで、月明《つきあかり》には、そんな影が出来たのだろう、と怪しまなかったが、その姿が、ふと屋根の上に移っ
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