そうにしたが、白地の浴衣を着てそこに立った私の姿を見ると、フト立停《たちどま》った美人があります。
扮装《みなり》なぞは気がつかず、洋傘《かさ》は持っていたようでしたっけ、それを翳《さ》していたか、畳んだのを支《つ》いていたか、判然《はっきり》しないが、ああ似たような、と思ったのは、その行方が分らんという一人。
トむこうでも莞爾《にっこり》しました……
そこへ笠を深くかぶった、草鞋穿《わらじば》きの、猟人体《かりゅうどてい》の大漢《おおおとこ》が、鉄砲《てっぽう》の銃先《つつさき》へ浅葱《あさぎ》の小旗を結えつけたのを肩にして、鉄の鎖をずらりと曳《ひ》いたのに、大熊を一頭、のさのさと曳いて出ました。
山を上に見て、正的《まとも》に町と町が附《くっ》ついた三辻《みつつじ》の、その附根《つけね》の処を、横に切って、左角の土蔵の前から、右の角が、菓子屋の、その葦簀《よしず》の張出《はりだし》まで、わずか二間ばかりの間《あい》を通ったんですから、のさりと行《ゆ》くのも、ほんのしばらく。
熊の背《せなか》が、彳《たたず》んだ婦人《おんな》の乳《ち》のあたりへ、黒雲のようにかかると、それ
前へ
次へ
全189ページ中125ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング