物の禁断は承知ですから、小刀《ナイフ》を持っちゃおりません、拳固で、貴僧《あなた》。
 小相撲《こずもう》ぐらい恰幅《かっぷく》のある、節くれだった若い衆でしたが……」
 場所がまた悪かった。――
「前夜、ココココ、と云って小刀《ナイフ》を出してくれたと同一《おなじ》処、敷居から掛けて柱へその西瓜《すいか》を極《き》めて置いて、大上段《おおじょうだん》です。
 ポカリ遣《や》った。途端に何とも、凄《すさ》まじい、石油缶が二三十|打《ぶ》つかったような音が台所の方で聞えたんです。
 唐突《だしぬけ》ですから、宵に手ぐすねを引いた連中も、はあ、と引呼吸《ひきいき》に魂を引攫《ひきさらわ》れた拍子に――飛びました。その貴僧《あなた》、西瓜が、ストンと若い衆の胸へ刎上《はねあが》ったでしょう。
 仰向《あおむけ》に引《ひっ》くりかえると、また騒動。
 それ、肩を越した、ええ、足へ乗っかる。わああ!裾へ纏《まつ》わる、火の玉じゃ。座頭の天窓《あたま》よ、入道首よ、いや女の生首だって、可《い》い加減な事ばかり。夕顔の花なら知らず、西瓜が何、女の首に見えるもんです。
 追掛《おっか》けるのか、逃廻るのか、どたばた跳飛ぶ内、ドンドンドンドンと天井を下から上へ打抜くと、がらがらと棟木《むなぎ》が外れる、戸障子が鳴響く、地震だ、と突伏《つッぷ》したが、それなり寂《しん》として、静《しずか》になって、風の音もしなくなりました。
 ト屋根に生えた草の、葉と葉が入交《いりまじ》って見え透くばかりに、月が一ツ出ています。――今の西瓜が光るのでした。
 森は押被《おっかぶ》さっておりますし、行燈《あんどう》はもとよりその立廻りで打倒《ぶったお》れた。何か私どもは深い狭い谷底に居窘《いすく》まって、千仞《せんじん》の崖の上に月が落ちたのを視《なが》めるようです。そう言えば、欅《けやき》の枝に這《は》いかかって、こう、月の上へ蛇のように垂《たれ》かかったのが、蔦《つた》の葉か、と思うと、屋根一面に瓜畑になって、鳴子縄が引いてあるような気もします。
 したたかな、天狗《てんぐ》め、とのぼせ上《あが》って、宵に蚊いぶしに遣《や》った、杉ッ葉の燃残りを取って、一人、その月へ投げつけたものがありました。
 もろいの、何の、ぼろぼろと朽木のようにその満月が崩れると、葉末の露と一つになって、棟の勾配《こうばい》
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