藤豆の如き早や蔓の端も見え初《そ》むるを、徒《いたづら》に名の大《おほい》にして、其の実の小なる、葉の形さへ定《さだか》ならず。二筋三筋すく/\と延びたるは、荒れたる庭に※[#「※」は「てへんに劣」、第3水準1−84−77、215−15]《むし》り果つべくも覚えぬが、彼処《かしこ》に消えて此処に顕れけむ、其処に又彼処に、シヽデンに似たる雑草数ふるに尽きず、弟はもとより、はじめは殊《こと》に心を籠めて、水などやりたる秋さんさへ、いひ効《がひ》なきに呆れ果てて、罵倒すること斜《なゝめ》ならず。草が蔓るは、又してもキウモンならんと、以来|然《さ》もなくて唯《たゞ》呼声のいかめしき渾名《あだな》となりて、今日は御馳走があるよ、といふ時、弟も秋さんも、蔭で呟いて、シヽデンかとばかりなりけり。
 日を経《ふ》るまゝに何事も言はずなりし、不図《ふと》其のシヽデンの菜《さい》に昼食《ちうじき》の後《のち》、庭を視《なが》むることありしに、雲の如き紫雲英に交りて小さき薄紫の花二ツ咲出でたり。立寄りて草を分けて見れば、形|菫《すみれ》よりは大《おほい》ならず、六|瓣《べん》にして、其薄紫の花片《はなびら》
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