こ》し薄暗《うすぐら》い影《かげ》が渡《わた》りました。
 風《かぜ》はそよりともない。が、濡《ぬ》れない袖《そで》も何《なん》となく冷《つめた》いのです。
 風情《ふぜい》は一段《いちだん》で、汀《みぎは》には、所々《ところ/″\》、丈《たけ》の低《ひく》い燕子花《かきつばた》の、紫《むらさき》の花《はな》に交《まじ》つて、あち此方《こち》に又《また》一|輪《りん》づゝ、言交《いひか》はしたやうに、白《しろ》い花《はな》が交《まじ》つて咲《さ》く……
 あの中島《なかじま》は、簇《むらが》つた卯《う》の花《はな》で雪《ゆき》を被《かつ》いで居《ゐ》るのです。岸《きし》に、葉《は》と花《はな》の影《かげ》の映《うつ》る處《ところ》は、松葉《まつば》が流《なが》れるやうに、ちら/\と水《みづ》が搖《ゆ》れます。小魚《こうを》が泳《およ》ぐのでせう。
 差渡《さしわた》し、池《いけ》の最《もつと》も廣《ひろ》い、向《むか》うの汀《みぎは》に、こんもりと一|本《ぽん》の柳《やなぎ》が茂《しげ》つて、其《そ》の緑《みどり》の色《いろ》を際立《きはだ》てて、背後《うしろ》に一叢《ひとむら》の森《
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