だ》れて乳《ちゝ》も見《み》える。其《それ》を片手《かたて》で祕《かく》したけれども、足《あし》のあたりを震《ふる》はすと、あゝ、と云《い》つて其《そ》の手《て》も兩方《りやうはう》、空《くう》を掴《つか》むと裙《すそ》を上《あ》げて、弓形《ゆみなり》に身《み》を反《そ》らして、掻卷《かいまき》を蹴《け》て、轉《ころ》がるやうに衾《ふすま》を拔《ぬ》けた。……
 私《わたし》は飛出《とびだ》した……
 壇《だん》を落《お》ちるやうに下《お》りた時《とき》、黒《くろ》い狐格子《きつねがうし》を背後《うしろ》にして、婦《をんな》は斜違《はすつかひ》に其處《そこ》に立《た》つたが、呀《あ》、足許《あしもと》に、早《は》やあの毛《け》むくぢやらの三俵法師《さんだらぼふし》だ。
 白《しろ》い踵《くびす》を揚《あ》げました、階段《かいだん》を辷《すべ》り下《お》りる、と、後《あと》から、ころ/\と轉《ころ》げて附着《くツつ》く。さあ、それからは、宛然《さながら》人魂《ひとだま》の憑《つき》ものがしたやうに、毛《け》が赫《かつ》と赤《あか》く成《な》つて、草《くさ》の中《なか》を彼方《あつち》へ、此方《こつち》へ、たゞ、伊達卷《だてまき》で身《み》についたばかりのしどけない媚《なまめ》かしい寢着《ねまき》の婦《をんな》を追※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《おひまは》す。婦《をんな》はあとびつしやりをする、脊筋《せすぢ》を捩《よぢ》らす。三俵法師《さんだらぼふし》は、裳《もすそ》にまつはる、踵《かゝと》を嘗《な》める、刎上《はねあが》る、身震《みぶるひ》する。
 やがて、沼《ぬま》の縁《ふち》へ追迫《おひせま》られる、と足《あし》の甲《かふ》へ這上《はひあが》る三俵法師《さんだらぼふし》に、わな/\身悶《みもだえ》する白《しろ》い足《あし》が、あの、釣竿《つりざを》を持《も》つた三|人《にん》の手《て》のやうに、ちら/\と宙《ちう》に浮《う》いたが、するりと音《おと》して、帶《おび》が辷《すべ》ると、衣《き》ものが脱《ぬ》げて草《くさ》に落《お》ちた。
「沈《しづ》んだ船《ふね》――」と、思《おも》はず私《わたし》が聲《こゑ》を掛《か》けた。隙《ひま》も無《な》しに、陰氣《いんき》な水音《みづおと》が、だぶん、と響《ひゞ》いた……
 しかし、綺麗《きれい》に泳《およ》い
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