と》めたけれども、其《それ》でも女中《ぢよちゆう》が伸《の》べて行《い》つた、隣《となり》の寐床《ねどこ》の、掻巻《かいまき》の袖《そで》が動《うご》いて、煽《あふ》るやうにして揺起《ゆりおこ》す。
『おゝ、』と飛附《とびつ》くやうな返事《へんじ》を為《し》て顔《かほ》を出《だ》したが、固《もと》より誰《たれ》も居《ゐ》やう筈《はず》は無《な》い。枕《まくら》ばかり寂《さび》しく丁《ちやん》とあり、木賃《きちん》で無《な》いのが尚《な》ほうら悲《かな》しい。
 熟《じつ》と視詰《みつ》めて、茫乎《ぼんやり》すると、並《なら》べた寐床《ねどこ》の、家内《かない》の枕《まくら》の両傍《りやうわき》へ、する/\と草《くさ》が生《は》へて、短《みじか》いのが見《み》る/\伸《の》びると、蔽《おほ》ひかゝつて、萱《かや》とも薄《すゝき》とも蘆《あし》とも分《わか》らず……其《そ》の中《なか》へ掻巻《かいまき》がスーと消《き》える、と大《おほき》な蛇《へび》がのたりと寐《ね》て、私《わたし》の方《はう》へ鎌首《かまくび》を擡《もた》げた。ぐつたりして手足《てあし》を働《はたら》かす元気《げんき》も
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