》も、お製作《こしら》へに成《な》つたんですか。……あゝ、いや、鷺《さぎ》のお手際《てぎは》を見《み》たので分《わか》る。軒《のき》に振《ぶ》ら下《さが》つた獅子頭《しゝがしら》や、狐《きつね》の面《めん》など、どんな立派《りつぱ》なものだつたか分《わか》らない。が、其《それ》に気《き》が着《つ》く了見《れうけん》なら、こんな虚気《うつけ》な、――対手《あひて》が鬼《おに》にしろ、魔《ま》にしろ、自分《じぶん》の女房《にようばう》を奪《うば》はれる馬鹿《ばか》は見《み》ない。
 失礼《しつれい》ながら、そんなものは目《め》も留《と》めないで、
『采《さい》は無《な》いか。』
『お媼《ばあ》さん、あの、采《さい》はありませんか。』
と同伴《つれ》の婦《をんな》も聞《き》いたんです。」……
 双六巌《すごろくいは》で振《ふ》らうと云《い》ふ、よく考《かんが》へれば夢《ゆめ》のやうなことだつた。
『一六《いちろく》、三五《さんご》の釆粒《さいつぶ》かの、はい、ござります。』と隅《すみ》の壁《かべ》へ押着《おつゝ》けた、薬箪笥《くすりだんす》の古《ふる》びたやうな抽斗《ひきだし》を開《あ》ける
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