さぶくろ》を敲《たゝ》いて言《い》つた。
『すかりと斬《き》れるぞ。残《のこ》らず貸《か》すべい。兵粮《へうらう》も運《はこ》ぶだでの! 宿《やど》へも祠《ほこら》へも帰《かへ》らねえで、此処《こゝ》へ確乎《しつかり》胡座《あぐら》を掻《か》けさ。下腹《したはら》へうむと力《ちから》を入《い》れるだ。雨露《あめつゆ》を凌《しの》ぐなら、私等《わしら》が小屋《こや》がけをして進《しん》ぜる。大目玉《おほめだま》で、天守《てんしゆ》を睨《にら》んで、ト其処《そこ》に囚《と》られてござるげな、最惜《いとをし》い、魔界《まかい》の業苦《がうく》に、長《なが》い頭髪《かみのけ》一筋《ひとすぢ》づゝ、一刻《いつこく》に生血《いきち》を垂《た》らすだ、奥様《おくさま》の苦脳《くなう》を忘《わす》れずに、飽《あ》くまで行《や》れさ、倒《たふ》れたら介抱《かいはう》すべい。』
 雪枝《ゆきえ》は満面《まんめん》に紅《くれなゐ》を濯《そゝ》いで、天守《てんしゆ》に向《むか》つて峯《みね》より高《たか》く握拳《にぎりこぶし》を衝《つ》と上《あ》げた。
『少《わか》いものを唆《そゝの》かして要《い》らぬ骨《ほ
前へ 次へ
全284ページ中227ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング