恵によると、鳥に近づくには、季節によって、樹木と同化するのと、また鳥とほぼ服装の彩《いろどり》を同じゅうするのが妙術だという。
 それだから一夜に事の起った時は、冬で雪が降っていたために、鳥博士は、帽子も、服も、靴まで真白《まっしろ》にしていた、と話すのであった。
      (……?……)
 ところで、鳥博士も、猟夫《りょうし》も、相互の仕事が、両方とも邪魔にはなるが、幾度《いくたび》も顔を合わせるから、逢えば自然と口を利く。「ここのおつかい姫は、何だな、馬鹿に恥かしがり屋で居るんだな。なかなか産む処を見せないが。」「旦那、とんでもねえ罰が当る。」「撃つやつとどうかな。」段々秋が深くなると、「これまでのは渡りものの、やす女だ、侍女《こしもと》も上等のになると、段々|勿体《もったい》をつけて奥の方へ引込むな。」従って森の奥になる。「今度見つけた巣は一番上等だ。鷺の中でも貴婦人となると、産は雪の中らしい。人目を忍ぶんだな。産屋《うぶや》も奥御殿という処だ。」「やれ、罰が当るてば。旦那。」「撃つやつとどうかな。」――雪の中に産育する、そんな鷺があるかどうかは知らない。爺さんの話のまま――猟
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