明神様もけなりがッつろと、二十三夜の月待の夜話《よばなし》に、森へ下弦の月がかかるのを見て饒舌《しゃべ》った。不埒《ふらち》を働いてから十五年。四十を越えて、それまでは内々恐れて、黙っていたのだが、――祟《たた》るものか、この通り、と鼻をさして、何の罰が当るかい。――舌も引かぬに、天井から、青い光がさし、その百姓屋の壁を抜いて、散りかかる柳の刃がキラリと座のものの目に輝いた時、色男の顔から血しぶきが立って、そぎ落された低い鼻が、守宮《やもり》のように、畳でピチピチと刎《は》ねた事さえある。
いま現に、町や村で、ふなあ、ふなあ、と鼻くたで、因果と、鮒《ふな》鰌《どじょう》を売っている、老ぼれがそれである。
村|若衆《わかいしゅ》の堂の出合は、ありそうな事だけれど、こんな話はどこかに類がないでもなかろう。
しかし、なお押重ねて、爺さんが言った、……次の事実は、少からず銑吉を驚かして、胸さきをヒヤリとさせた。
余り里近なせいであろう。近頃では場所が移った。が、以前は、あの明神の森が、すぐ、いつも雪の降ったような白鷺の巣であった。近く大正の末である。一夜に二件、人間二人、もの凄《すご》
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