て。……あとでは、料理ばかりにして、牡丹亭といったそうです。父がなくなりますと……それが人手から人手へ渡って、あとでは立ちぐされも同様。でも、それも、不景気で、こぼし屋の引取手もなしに、暴風雨《あらし》で潰《つぶ》れたのが、家の骸骨《がいこつ》のように路端《みちばた》に倒れていますわ。
母はその牡丹亭ごろの、おかみさん。……そんな事は申しませんでもいいんですけど、父とは、大層若くて年が違いました。
――町あたりの芸者だそうです。ですが、武家の娘だったせいですか――まだ、私がお腹に。……」
ふと耳許《みみもと》をほんのりと薄く染めた。
「お腹のうち、本所に居る東京の遠縁のものにたよって出まして、のちに、浅草で、また芸者をしたんですけれど、なくなります時、いまわの際まで、血統《ちすじ》が絶える、田沢の家を、田沢の家をと、せめて後を絶《たや》さないように遺言をしたんです。
私はその時分、新橋でお酌に出ておりました。十四や十五の考えで、この上一本になって、人の世話になるにした処で、一人で商売をした処で、家を立てるのぞみがありそうに思われません。だもんですから、都合をつけて道をかえまして
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