ましたんですけど、つい、とっちてしまいましたの。」
「ところで……ちょっとお待ちなさい。この水は飲んで差支えないんですかね。」
「ええ、冷い、おいしい、私は毎日のように飲んでいます。」
それだと毎日この祠《ほこら》へ。
「あ、あ。」
と、消えるように、息を引いて、
「おいしいこと、ああ、おいしい。」
唇も青澄んだように見える。
「うらやましいなあ。飲んだらこっちへ貸して下さい。」
「私が。」
とて、柄を手巾《ハンケチ》で拭《ふ》いたあとを、見入っていた。
「どうしました。」
「髪がこんなですから、毛が落ちているといけませんわ。」
「満々《なみなみ》と下さい。ありがたい、これは冷い。一気には舌が縮みますね。」
とぐっと飲み、
「甘露が五臓へ沁《し》みます。」
と清《すず》しく云った。
小県の顔を、すっと通った鼻筋の、横顔で斜《ななめ》に視《み》ながら、
「まあ、おきれいですこと。」
「水?……勿論!」
「いいえ、あなたが。」
「あなたが。」
「さっき、絵馬を見ていらっしゃいました時もおきれいだと思ったんですが、清水を一息にめしあがる処が、あの……」
「いや、どうも、そりゃち
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