くわいぜん》として聳《そび》ゆれども奧行《おくゆき》は少《すこ》しもなく、座敷《ざしき》は殘《のこ》らず三角形《さんかくけい》をなす、蓋《けだ》し幾何學的《きかがくてき》の不思議《ふしぎ》ならむ。
[#ここで字下げ終わり]
「島金《しまきん》の辻行燈《つじあんどう》。」
[#ここから1字下げ]
家《いへ》は小路《せうぢ》へ引込《ひつこ》んで、通《とほ》りの角《かど》に「蒲燒《かばやき》」と書《か》いた行燈《あんどう》ばかりあり。氣《き》の疾《はや》い奴《やつ》がむやみと飛込《とびこ》むと仕立屋《したてや》なりしぞ不思議《ふしぎ》なる。
[#ここで字下げ終わり]
「菓子屋《くわしや》の鹽餡娘《しほあんむすめ》。」
[#ここから1字下げ]
餅菓子店《もちぐわしや》の店《みせ》にツンと濟《す》ましてる婦人《をんな》なり。生娘《きむすめ》の袖《そで》誰《たれ》が曳《ひ》いてか雉子《きじ》の聲《こゑ》で、ケンもほろゝ[#「ほろゝ」に傍点]の無愛嬌者《ぶあいけうもの》、其癖《そのくせ》甘《あま》いから不思議《ふしぎ》だとさ。
[#ここで字下げ終わり]
さてどんじりが、
「繪草紙屋《ゑざうしや》の四
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング