神樂坂七不思議
泉鏡花
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)世《よ》の中《なか》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぴしや/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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世《よ》の中《なか》何事《なにごと》も不思議《ふしぎ》なり、「おい、ちよいと煙草屋《たばこや》の娘《むすめ》はアノ眼色《めつき》が不思議《ふしぎ》ぢやあないか。」と謂《い》ふは別《べつ》に眼《め》が三《み》ツあるといふ意味《いみ》にあらず、「春狐子《しゆんこし》、何《ど》うでごす、彼處《あすこ》の會席《くわいせき》は不思議《ふしぎ》に食《くは》せやすぜ。」と謂《い》ふも譽《ほ》め樣《やう》を捻《ひね》るのなり。人《ひと》ありて、もし「イヤ不思議《ふしぎ》と勝《か》つね、日本《につぽん》は不思議《ふしぎ》だよ、何《ど》うも。」と語《かた》らむか、「此奴《こいつ》が失敬《しつけい》なことをいふ、陛下《へいか》の稜威《みいづ》、軍士《ぐんし》の忠勇《ちうゆう》、勝《か》つなアお前《めえ》あたりまへだ、何《なに》も不思議《ふしぎ》なことあねえ。」とムキになるのは大《おほ》きに野暮《やぼ》、號外《がうぐわい》を見《み》てぴしや/\と額《ひたひ》を叩《たゝ》き、「不思議《ふしぎ》だ不思議《ふしぎ》だ」といつたとて勝《か》つたが不思議《ふしぎ》であてにはならぬといふにはあらず、こゝの道理《だうり》を噛分《かみわ》けてさ、この七不思議《なゝふしぎ》を讀《よ》み給《たま》へや。
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東西《とうざい》、最初《さいしよ》お聞《きゝ》に達《たつ》しまするは、
「しゝ寺《でら》のもゝんぢい。」
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これ大弓場《だいきうば》の爺樣《ぢいさん》なり。人《ひと》に逢《あ》へば顏相《がんさう》をくづし、一種《いつしゆ》特有《とくいう》の聲《こゑ》を發《はつ》して、「えひゝゝ。」と愛想《あいさう》笑《わらひ》をなす、其顏《そのかほ》を見《み》ては泣出《なきだ》さぬ嬰兒《こども》を――、「あいつあ不思議《ふしぎ》だよ。」とお花主《とくい》は可愛《かはい》がる。
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次が、
「勸工場《くわんこう
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