ば》の逆戻《ぎやくもどり》。」
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東京《とうきやう》の區《く》到《いた》る處《ところ》にいづれも一二《いちに》の勸工場《くわんこうば》あり、皆《みな》入口《いりぐち》と出口《でぐち》を異《こと》にす、獨《ひと》り牛込《うしごめ》の勸工場《くわんこうば》は出口《でぐち》と入口《いりぐち》と同一《ひとつ》なり、「だから不思議《ふしぎ》さ。」と聞《き》いて見《み》れば詰《つま》らぬこと。
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それから、
「藪蕎麥《やぶそば》の青天井《あをてんじやう》。」
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下谷《したや》團子坂《だんござか》の出店《でみせ》なり。夏《なつ》は屋根《やね》の上《うへ》に柱《はしら》を建《た》て、席《むしろ》を敷《し》きて客《きやく》を招《せう》ず。時々《とき/″\》夕立《ゆふだち》に蕎麥《そば》を攫《さら》はる、とおまけ[#「おまけ」に傍点]を謂《い》はねば不思議《ふしぎ》にならず。
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「奧行《おくゆき》なしの牛肉店《ぎうにくてん》。」
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(いろは)のことなり、唯《と》見《み》れば大廈《たいか》嵬然《くわいぜん》として聳《そび》ゆれども奧行《おくゆき》は少《すこ》しもなく、座敷《ざしき》は殘《のこ》らず三角形《さんかくけい》をなす、蓋《けだ》し幾何學的《きかがくてき》の不思議《ふしぎ》ならむ。
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「島金《しまきん》の辻行燈《つじあんどう》。」
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家《いへ》は小路《せうぢ》へ引込《ひつこ》んで、通《とほ》りの角《かど》に「蒲燒《かばやき》」と書《か》いた行燈《あんどう》ばかりあり。氣《き》の疾《はや》い奴《やつ》がむやみと飛込《とびこ》むと仕立屋《したてや》なりしぞ不思議《ふしぎ》なる。
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「菓子屋《くわしや》の鹽餡娘《しほあんむすめ》。」
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餅菓子店《もちぐわしや》の店《みせ》にツンと濟《す》ましてる婦人《をんな》なり。生娘《きむすめ》の袖《そで》誰《たれ》が曳《ひ》いてか雉子《きじ》の聲《こゑ》で、ケンもほろゝ[#「ほろゝ」に傍点]の無愛嬌者《ぶあいけうもの》、其癖《そのくせ》甘《あま》いから不思議《ふしぎ》だとさ。
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さてどんじりが、
「繪草紙屋《ゑざうしや》の四
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